鳥は空を飛ぶから鳥である。
だったら飛べない鳥は鳥では無いのか…。
否、それもまた鳥である。

では、羽を無くした鳥は何を意味しているのだろうか。
無い翼をただ羽ばたかせ…飛べないことを実感するしか出来ないのだろうか。


「気分はどうだい?」
持っていた煙草に火をつけながらこちらを向いて微笑み掛けてくれる。
「すみません、迷惑掛けてしまって…」
自分が酷く子供でただ恥ずかしい。
「別に構わないよ。弟がお世話になってるしね」
そんな俺の気持ちを見透かしているのか、目の前の人物はただ微笑んで俺を見つめるだけ。
「いえ、そんな……俺の方が…」
俺は目を反らす。
これ以上俺の汚い部分を見せる訳にはいかないから。
「水野君だよね?」
気にしていないかのよう優しい声色で呼び掛けてくれる。
「はい…」
「将が好きなの?」
「っあ…」
核心に触れるその言葉は思ったより簡単で何故か怖かった。
「将は無理だよ」
俺の羽はこの時折れた。
そんな気がした。
「そんなのっ、分かって…ます」
そうだ…分かってた筈だ。
風祭には好きな人がいるって事を。
だから俺が幾ら羽ばたいてもお前は高い所を飛んで行く。
「水野君」
ただ、それを貴方に言われたくなかった…。
風祭の兄である貴方に。
「水野君…」
あぁ、終わりだ。
側にあった鞄を取り立ち上がろうとしたら、腕を掴まれ元居た場所に戻される。
「放して下さいっ…」
「ダメ、放すと水野君逃げちゃうでしょ?」
「っあ…」
力強く腕の中に引き寄せられる。
微かに甘く匂うのは香水なのか、それとも…。
「水野君…好きだよ」
「う、嘘…」
「ホント、将が家に連れてきた時から気になってた」
「そんな…」
風祭の家に来たのはかなり前の話だ。
「俺の恋人になって下さい」
貴方は風祭の兄だ。
貴方の側にいたら嫌でも風祭が目に入る。
そんなの俺には無理だ。
「無理…です…」
「大丈夫」
「な、に…がですか」
「俺が君を隠してあげる」
優しく包んでくれていた腕が少し強くなった。
「こうやって」
「……知りませんよ」
「ん?」
「羽ばたいても…」
「良いよ。最後に戻って来てくれれば」


甘い香りは外の世界。
腕の中は籠の中。


羽ばたけない鳥が安心出来るのは籠の中。
優しい籠は貴方だけ。








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2006.4.26



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