「え、スペイン?」
目の前にいる人物が発した言葉が、右から左へと抜ける感覚に陥った。
「そう、スペイン」
俺の動揺なんて気にもせず事も無げに言う。
「何時から……?」
「明日」
「明日!?」
幾ら何でも急すぎるだろ……。
別に行くなとは言わないが、心の準備くらいはさせてくれても良いだろうとは思う。
「言わなかったのは、悪いと思ってるよ」
そんな気も無い癖に奴はそう言う。
「でさ、俺忙しくなるから連絡も出来なくなる訳」
「あぁ」
「だから別れよう、水野」
「………」
綺麗な笑みなのに投げかけられた言葉は理解出来なかった。
ただその笑顔に魅せられるように俺の時が止まった気がした。
「水野?」
「えっ、あ……」
何事も無かったように声を掛けられる。
「冗談じゃないから」
目に掛かりそうになった前髪を優しく指が撫で、避ける。
「う、ん」
あぁ、やっぱり冗談じゃないのか、そう思い俯いた瞬間にまたパラパラと前髪が元の位置に戻った。
「あんまり俯くなよ、俺が小さく見えるだろ」
いや、それは元からだと思う……いつもはそんな風に言うけど今は言えなかった。
「あのな水野、別に俺はお前のこと嫌いになった訳じゃないし…」
「分かってる」
俯いていた顔を上げ、前をちゃんと見る。
「行って来いよ、あんたが強くなって帰ってくるの期待してる」
俺たちを繋げたのはサッカーだ。
「お前、年上に向かって格好良い事言ってくれるね、流石は我等が司令塔って感じだぜ」
「バーカ」
コツンと頭に軽い痛みが走った。
「お前も強くなれよ、俺が惚れ直すくらいにな」
「言われなくたって」
「ま、これ以上惚れさせられても……とは、思うけどな、って、顔赤くなってんぞ」
普段滅多に言わない癖にこの状況で言うか?
「水野」
ふざけた調子はどこかへ消え、幼く見えるその顔は大人の男に見えた。
「さよなら」
「………っ」
「泣くなよ、俺らはそれぞれの道に行くけど、最後には1つになんだから」
小さい子にするように椎名は俺の頭をワシャワシャとかき回す。
「ちょ、痛」
「痛いようにしてんだよ!じゃあな、水野」
「あぁ」
軽く手を振って走り出した椎名をその姿が見えなくなるまで俺はずっと眺めていた。



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2007.5.29

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