君の笑顔を見たい

君の事が大好きだから笑った顔が見たいんだ

君のためならどんな事だって俺らはするよ

 

 

笑顔

 

 

『誕生日おめでとう、竜ちゃん』

俺の誕生日の一日は母さんのこの言葉で始まる。

もう祝う歳でも無いだろ?と思いつつ『ありがとう』と答える。

友達も少なく、人付き合いが悪い俺にとっては母さん、家族からしか祝って貰えないような誕生日だ。でも、それでも嬉しい。誰かに祝って貰えるというのは幸せな事だ、そう思う。

だから今年の誕生日も母がそう言って始まるのだと思っていた。

 

11月30日

朝、いつものように起きる。

布団から出るのを躊躇うくらい肌寒い。でも、出ない、という訳には行かないので渋々出る。

冷たいままの制服を素早く着る。ゆっくり着ているとそれだけ寒いのだ。確かに着る瞬間は冷たいが着てしまえばどうという事も無い。

階段を降りると美味しそうな匂いが漂う。その匂いにつられて、という言葉も強ち間違いでは無くキッチンに行く。

「あら、竜ちゃんおはよう」

「おはよう、母さん」

俺が椅子に座ると既に用意してある朝食。

「あ、そうだ竜ちゃん今日取りに行って欲しい物があるんだけど、頼めるかしら?」

「別に良いけど・・・」

「ちょっと遠い所なんだけど・・・大丈夫かしら?」

「・・・・・」

用意周到というしか無い手渡された地図を見る、確かに遠い。ちょっと、というには少し、いや、かなり微妙なセンだ。

「別に良いよ」

部活も休みで特にする事も無いし。と付け加える。

「良かった。断られたらどうしようかと思っちゃった」

どこか浮かれた様子でそう言う母さんに少し不思議がりながら朝食を食べた。

 

 

学校に行く途中でふっと思い出す。

「あ、そういえば言われて無いな・・・」

例年通りであれば今日は朝に『お誕生日おめでとう』と言われる筈だ。

でも、今年はどうだろう?何も言われていない。

ふぅっと小さくため息をつく。

確かにもう祝わなくても良いとは幾度とか言った記憶がある。でも、それくらいで祝わなくなる母でも無い。

「・・・何かあったかな」

思い当たる事も無く、結局は母さんが忘れているか俺の言った通りに祝わなくなったかのどちらかだろうという結論にした。

自分で言ったにも関わらずどこか寂しい、そんな気もした。

 

 

「たつぼんどないしたん?」

「何が?」

イキナリ話し掛けたシゲが何を言っているのか解らなかった為、聞き返す。

「いや、何か難しい顔しとったから」

「そうか?」

自分では気付かない内に今朝の事を気にかけていたらしい。

「何やったら兄さんに相談しぃや」

「誰が兄さんだよ」

「ほら、俺年上やし」

確かにシゲは1歳上だ。だからといって兄、という頼りある感じもしない。

「別に・・・何でもねぇよ」

「そうか?そんな顔しよって」

折角の綺麗な顔が台無しやで?と冗談っぽく付け加えた。

「そいや、シゲ、今日用事あるか?・・・いや、何でも無い」

シゲの付け加えは無視して、一緒に母さんに頼まれた物を取りに行ってくれないか?と頼もうとしたが、やっぱり言うのは止した。

「何や?」

「いや、気にしないでくれ」

「そか?ならええわ」

「じゃ、また明日な」

そう言うと俺は鞄を手に取り教室を出た。

「また直ぐに会うねんけどな」

シゲの笑いを含んだ言葉は教室を出ていた俺には聞こえるはずも無かった。

 

 

母さんが描いた地図を見ながら目的の場所へ行く。家とは正反対の方向だ。しかも妙に道が入り組んでいる。地図を見ながら進むが目的の場所らしき建物は見付からない。

地図を見ると近くに小学校があるらしい、が、その小学校も見当たらない。

「はぁ・・・」

思わずため息が出る。

母さんに頼まれたのは修理に出した時計を取りに行くという簡単なモノだったのだが、その目的の場所が見当たらないのであれば、ため息の一つや二つ出るだろう。

道に迷って30分。道を聞こうにも、普段から人通りが少ないのか、時間のせいなのか、人が通らない。

「うーん・・・あっ!」

心身ともに疲れ始めていた時だった。やっと人影らしいものを見つける。

走りその影の下へと行く。

「すみません」

ある程度の距離に達した時に声をかける。この距離ならば相手にも充分声は届くであろう。

「はいはい、何でしょう?」

声をかけた相手は穏やかな初老の女の人だった。

「道を聞きたいんですが、この近くに時計屋はありますか?」

「時計屋・・・あぁ、あそこのことかしら」

そういうと親切に地図を描いてくれた。どうやら、母さんの地図は1本線が足りなかったようで、俺は一つ前の道をうろうろしていたという事だ。

お礼をしてから俺は目的の時計屋に向かいだした。

 

そこは何処か不思議な感じの時計屋だった。どこか懐かしい、そんな気にさせてくれた。

「あの、すみません」

「はい」

物腰の落ち着いたお爺さんが此方を向く。

「えっと、水野と言います、此方に時計の修理を頼んだんですが」

「あぁ、水野さんの所の、少し待ってくれるかな?」

「はい」

そういうとお爺さんは奥の部屋に入って行った。

カチコチ、カチカチ、チッチッ、複数の時計の音が奏でる曲はどこか心を落ち着かせた。

その音に聞き入ってどれくらい経っただろう、5分?10分?いや、もっと長いかも知れないし、短いのかもしれない。

「はい、これだね」

いつの間にか奥の部屋から出て来ていたお爺さんに時計をスッと差し出された。

「あ、はい・・・有難う御座います」

その時計は父さんがいつもしていたもので、複雑な気持ちになりながらも受け取る。

「その時計はとても大事にされているんだね」

優しい微笑を見せるお爺さんにその複雑な気持ちが少し悪いものに感じた。

「えぇ・・・」

ただ、そう答えることしか出来なかった。

「もう暗いから気をつけてお帰り」

「はい」

言い終わると同時に足を外へと向かわせた。

 

風がかなり冷たい。身体は歩いているせいか温かいのだが、風にさらされている頬だけはとても冷たかった。

一歩一歩と確実に家へと近付く。

周りは誰も居ない。まるでそこに自分しか居ないようなそんな錯覚に陥る。

「静かだな・・・」

カツッ、カツッ、と自分の足音が響き渡っている。

時々、冷たい風に吹かれ、木々がざわざわと揺れる。

音といえばそれくらいだろう。

 

後数十メートルで家だ。という時に家の前に人影があるのが分かった。

見覚えがあるが、いや、まさか・・・そう思って家に近づく。

「よぉ」

その声には聞き覚えがある。

「三上・・・」

家の前に立っていたのは三上だった。

「何でこんな所にいるんだ?」

別に三上が来る事はそれ程珍しい事でも無いが、何故に家の前に立っているか、という事だ。俺がいなかったら、家の中で待っているか、帰っている。それが三上だ。寧ろ大抵の人間もそうだが。

「・・・まぁ、気にするな。それより遅かったんだな」

「あぁ・・・」

少し不自然な感じもしつつ素直に答える。

「水野・・・」

三上の手がそっと俺の頬を触る。その手は温かくてとても心地良かった。

「冷たいな」

「え、あぁ・・・」

一瞬何の事だが分からなかったが、直ぐに自分の頬が冷たいのだと分かった。

「入ろうぜ」

自分の家でも無いのに三上に即され、玄関に手を掛ける。

「ほら」

入れと更に即される。入った瞬間に・・・

パンッ、パーン、と複数の音が聞こえた。

「「「誕生日おめでとう!!」」」

「え・・・」

目の前にいるのは選抜メンバーたち。しかもクラッカーまで持って。

「水野っ!!」

呆けている俺に第一声を掛けたのが藤代。しかも、突進して来て抱きついてきた。

「ちょっ、藤代・・!?」

抱きついて、水野、水野と叫んでいる。いつもの事とは思いつつも流石に耳元だと煩い。

「おい、バカ代」

俺を見かねて三上が声をかけた。

「何ですか?三上先輩」

「そのくらいにしとけ、あいつらに殺されるぞ」

そう言って目だけ動かす。

「あ・・・」

その視線に気付いた藤代はパッと体を離した。

「水野、そんな所にいないで早く入りなよ」

そういう椎名の言葉で俺はやっとリビングに行くことが出来た。

リビングに入るとそこは別世界、とまではいかないが、綺麗に飾り付けられていた。

その中央には母さんが居て、微笑みながら言った。

「竜ちゃん、おかえりなさい」

いつも通りの反応で。

「・・・ただいま、母さん、これは?」

周りを見回しながら問う。

「驚いた?皆がね、竜ちゃんの誕生日を祝いたいって言ってね」

そう言うと母さんは何故こうなったかを説明してくれた。最後に、良かったわね、と付け加えて。

 

集まった面子といえば、かなり凄い面子だ。寧ろ此れだけよく入れたなと思わずにはいられないくらいの大人数だ。

「どや、たつぼん吃驚したやろ?」

満面の笑顔で言うシゲ。

「お前・・・」

「そんな怒った顔せんといて!折角の美人さんが台無しやで」

「別に怒ってる訳じゃないけど・・・」

お祭り好きに拍車が掛かったんだろうが、此れは俺の誕生日だ。シゲなりに祝ってくれているのだ。かなりの大事なってはいるが。

「ほな、今日の主役は挨拶周りしてきぃ」

そう言うと、郭、真田、若菜の方向へと俺を向け背中を押した。

 

「あ、水野」

俺が近づいてきた事に気付いた若菜はいつもの笑顔を向けて名を呼んだ。

「水野、誕生日おめでとう」

落ち着いた笑みを向けて言うのは郭。

「えっと・・・おめでとう」

少し照れた顔で言うのは真田。

「あ、お前らズルイぜ!!水野おめでとう!」

「ありがとう・・・」

何故か小さな声しか出なかったけど、3人には聞えたみたいで、3人とも嬉しそうに笑っていた。どうして、そんな嬉しそうな顔をするのかは分からないけど。

 

「水野」

「あ、渋沢さん」

次は何処へ行けば良いのだろうか?と迷っていた所を渋沢さんに呼び止められた。

「誕生日おめでとう。それと、今日は吃驚させてすまなかったな」

「いえ、そんな・・・有難う御座います」

本当に申し訳そうな顔をする渋沢さんを少し可笑しいなと思いつつも御礼を言う。

 

 

皆から沢山の『おめでとう』を言われた。

嬉しかったけど、でも、やっぱり恥かしくて・・・、どうして良いか分からなかった。

ただ俺は『ありがとう』しか言えなくて・・・。

でも、皆は気にした様子も無くて。

それがまた嬉しかった。

 

 

「皆、ありがとう・・・」

少し照れた笑顔で俺は言った。

 

 

 





END








久々の更新で御座います。しかもかなり遅い水野誕生日話。・・・遅いながらおめでとうっ!!愛してるよっ!(笑)
此れはアレですね、総受というより、皆に愛されてるんだよ。という事だけを言いたかった・・・。
黒背景は好きだわ。だが、初かな・・・?


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