手渡すわけでも無く、ただそっと忍ばせるだけ。
机の中に・・・淡い空色の包装紙で包んであるチョコレートを。
Light sky Valentine
「シゲ」
「どうしたん？たつぼん」
いつの間にか授業は終わり、部活の時間となっていた。
まぁ、今日は部員達がデートだの・・・という事で止む得ず中止になったが。
「どうした、はお前だろ。ボーッとして」
らしくないぞ。と付け加える事も忘れずに水野は言った。
「あー、何や気になってしもて・・・」
「何がだ・・・？」
「今日はバレンタインデーやろ？」
「あぁ・・・」
確かに今日はバレンタインデーだ。下駄箱、机の上、手渡し・・・等の色々な方法で渡される。まぁ、殆ど無理矢理に近いが。
「で、気になってんねん」
「だから何がだよ！！」
ハッキリ言えよ！と言わんばかりの勢いで詰め寄る。
「チョコの差出人や」
「・・・は？」
意味が分からない、というような表情をする水野に思わずシゲの顔が緩む。
「・・・どういう事だよ？」
その言葉を聞くと机の中からゆっくりと水色の包みを出した。
「此れや、此れ」
「何だ・・・此れ？」
「見て分からんのか？チョコやチョコ」
「へぇ・・・」
水野はその包装紙に感嘆の息を漏らす。
「綺麗やろ？で、差出人が分からんのや・・・」
「手渡しされたわけじゃないのか・・・？」
シゲなら大抵の子は手渡しで渡してくる。だからその包装紙の相手も手渡しで渡したのだろうと水野は思っていた。
「いや、朝机の中に入っとった」
「・・カードとかは？」
「入っとったら気になる何て言わへん」
「まぁ、それもそうだよな・・・」
珍しいな、シゲが気にする何て。そう思いながらも口にする事はしなかった。
「まぁ、一緒に帰りながら話そうか？ええやろ？」
「別に良いぜ」
シゲは鞄にしては薄っぺらい鞄を手に取り、水色の包装紙に包まれたチョコを鞄に入れた。
優しく、とても愛しい人からの贈り物を入れるように・・・。
「ほんま気になるわ、誰やろ」
「さぁ」
「さぁ、って冷たいなぁ、たつぼん」
しるかよ、と言いながら先程から気になったことを聞く。
「中身は見たのか？」
「あ、まだや」
包装紙は開けたが、流石に箱の中までは見ていなかったらしい。
ガサガサッと音はするが、丁寧に開けていることは分かる。
「・・・・・・」
息を飲み込んだのが分かった。
「どうかしたのか？」
「いや・・・何や嬉しいなぁ、いう気分になってしもて・・・」
今日のシゲは珍しいこと続きだ、と思いながらその中身を見てみる。
「・・・手作り・・か？」
中にあるのはチョコチップクッキーというやつだ。
「そう、みたいやな」
「・・・食べれば？」
「あ、あぁ・・・」
今にも壊れるものを扱うかのようにゆっくりと手に取る。
一口、二口と食べる。
「・・・甘ない」
「え？」
ボソッと呟いた声が耳に入って少し驚きの声をあげる。
「・・・クッキーだし、甘く無いんじゃねぇの？」
「そうやねんけど、それとはちょっと違うねん」
どう違うと言うのだろう。
「更に甘さ控えめ・・・て、言うた方がええかな」
「へぇ・・・」
更にもう一つ手に取り食べる。
「甘い」
「・・・は？」
先程と言っていることが違う。それを怪訝に思いながらも、意味が分からなかったので聞くしかなかった。
「・・・意味分かんねぇよ」
「愛の甘さちゅうわけや」
「・・・いや、ますます意味分かんねぇよ」
そう言うとシゲはまたクッキーを口に入れた。
「・・・ん、っ・・・ふっ・・・」
口の中に押し込まれる少し甘いクッキー。
「・・・っ、何すんだよっ！！」
「せやから、言うてるやろ。愛の甘さやって」
意味分かんねぇ、と水野が言おうとした時、それより先にシゲの唇が動いた。
「嬉しいわ、おおきに、たつぼん」
「・・・・・・・」
その言葉を聞いた瞬間水野の顔に朱が差す。
「・・・いつ気がついたんだ」
ボソボソッとシゲに聞こえるだけの声で水野は聞いた。
「見てしもうたんや、たつぼんが入れる所」
「・・・何で・・・っ！！今日は早く来るんだよっ！！」
いつもは遅刻ギリギリも良い所。
「何やろう、たつぼんに早う会いたかっただけかも」
そう言いながら、ふわっと笑うシゲに水野の顔は段々と赤くなっていく。
「なぁ、せやから言うて・・・差出人の名前」
知ってるくせに俺に言わせるつもりか？まぁ、たまには・・・素直に言う事聞くのも良いかもな・・・。
「水野・・竜也だけど・・・やるよ」
――― 貰ったのは淡い空色がよく似合う、君の赤くなった笑顔。
End
ギリギリバレンタインでＵＰ。･･･シゲ水書くつもり無かったのについつい書いてしまいました。
1位故！！1位だからか！？という事で微妙で申し訳ないです。
1日で書くのは辛いですね・・・ハードな1日だった・・・。
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