a secret



最近避けられいるような気がするのは気のせいだろうか。
いや、多分気のせいでは無い筈だ。
元から人付き合いは苦手だが、此処まで避けられていると分かる。



「おい、藤代」
「何っすか?三上先輩」
「ちょっと来い」
「え、ちょ、ちょっと!!」
ずるずると引きずられて行く藤代を見ながら俺は小さくため息をした。
何か嫌われるような事でもしただろうか。
此処数日、目に見えて藤代に避けられている気がする。
目が合えば即座に逸らされる。
前ならば合った瞬間に飛びついて来たものだ。
まぁ、それはそれで困っていたが、こうもあからさまに避けられると気分が悪いのだが、話掛けようにもタイミングが無い。
「はぁ」
それに藤代だけじゃない。
気付いたのは藤代のせいだが。
それまでは気にしていなかったのだが、ふと目を合わせたりすると軽く逸らされる。
注意して見なくては分からない反応ではあったが。
「嫌われてるのか……?」
確かに以前は敵同士だったが、もうこの学校に来て半年以上過ぎている。
「いや、でも……」
数日前からだし……って事はやっぱり何か余計な一言でも言ったのだろうか。
「水野、どうかしたのか?」
「あ、渋沢さん……」
「何か悩み事でもあるのか?」
上げていた目線を少し下げながら俺はボソボソっと話した。
「どうやら俺、嫌われてるみたいで」
少し間を置いてから渋沢さんは俺の頭に手を置き。
「そんな事は無いぞ」
「でもっ!!」
視線が合うとにっこりと微笑まれ、少し焦っていた心が和らいだ。
「すみません……」
ふっ、と小さい声と共に更に笑い顔になり俺の頭を軽く撫でた。
「水野……」
渋沢さんが何かを喋ろうとした時、遮る声が聞こえた。
「渋沢ー!!何やってんだ、てめぇ!!」
声と態度で分かったが三上先輩だ。
声のした方を向くと怒った様な足取りで俺たちの方へ向かって来た。
「三上、どうかしたか?」
「どうかしたか?じゃ無ぇだろ……その手!!」
ビシッと人差し指を立て俺の頭上へとやる。
「あぁ、そうか、すまないな水野」
「いいえ、大丈夫です」
「……水野も怒るとかしろよ」
「いえ、別に……相談に乗ってもらっただけですから」
「相談?だったら俺にしろ!!」
今にも掴みかかりそうな勢いで俺に言う。
「……遠慮しときます」
「んだと!?」
「三上、落ち着け」
宥める渋沢さんに更に怒りが募っていく様子の三上先輩に俺は付け加えた。
「三上先輩……有難う御座います」
「は、な、何だ、いきなり」
取り敢えずこの人なりに俺の事を心配してくれたのだろう。
最初は嫌いだった三上先輩でも、今では先輩を付けるほど敬意は払っている。
まぁ、入った早々に直されたからでもあるが。
「じゃあ、後は三上に任せるとしよう……俺は先に行っている」
「あぁ、分かった」
渋沢さんのその言葉に気を持ち直した様子で答えてから、俺に向き直った。
「水野手伝え」
「え、ちょっと……」
「すまないな」
片方の手を上げ、謝りながらも爽やかに走っていく渋沢さんを目で追っていた。




「な、何ですか……これ」
あまりの惨状に声が少し上擦った。
「藤代のせいだ」
「え、藤代が……?」
「あいつが昨日と一昨日の担当だった」
「……そうですか」
何となくそれて納得してしまう自分が居た。
そこに入った瞬間に目にしたのはサッカーボールだった。
しかも散乱していたり、ネットに絡まったり。
「まぁ、ちゃんと磨いただけマシか」
そう言ってボールを手に取りながら次々と籠へ入れていく。
俺もそれに倣いボールを取り籠へと入れて行く。
「でも、この量を藤代1人にやらせるのには無理があったんじゃ……」
「はっ、あいつが俺の部屋やらでゴミをばらまいた報いだ。それに監督の了承も取ってある」
……仕方ないか。
「水野、そっちのボール取ってくれ」
「あ、はい」
拾い上げ、手渡しをしようとした時に指が触れた。
「っ、悪ぃ」
「……俺の方こそ、すみません」
「……そろそろ出るか」
「……はい」
片付いた倉庫を見ながら言う三上先輩に頷き返す。
少し歩いた先で三上先輩が振り向いた。
「水野、食堂付き合えよ」
有無を言わせないその妙な迫力に俺は頷くしか出来なかった。




パーン、パパーン
クラッカーの音がし、吃驚していると三上先輩が背中を押した。
「水野ー、誕生日おめでとー!!」
「おめでとう」
口々に祝いの言葉が飛び交う。
「え、あ」
「水野ー!!」
名を呼ばれたと同時に激しい衝撃が走った。
「おい、藤代、何抱きついてんだ」
「別に良いじゃないっすか!!俺、今水野欠乏症なんっすよ!!」
「はっ、何言ってやがる。自分から避けてた癖によ」
「だって俺喋らない自信無いですもん」
俺の前と後ろで言い合う2人に慌てていると。
「こら、止めないか」
「あ、キャプテン」
その一言でピタッと藤代が止まり、離れた。
「水野、誕生日おめでとう……嫌われてなかっただろ?」
その言葉で俺の中にあった霧は晴れていった。
「っ……」
「み、水野……?」
困惑した顔をしながらも渋沢さんは俺の背中に手をやった。
「ありがとう……ございます」
「ちょ、何渋沢にだけ抱きついて、しかもお礼言ってんだ!!」
「キャプテンずるい!!俺も、俺も!!」
後ろからは藤代が抱きついてきて、それを三上先輩が剥がそうとしている。
周りの奴等は何やってんだ、こいつ等、という感じで笑っていたが、とても楽しそうだった。
「いい加減離れろつーんだ、よ!!」
「嫌ですー!!」
「ま、まぁ、落ち着け、2人共」
「てめぇに言われたくねぇ!!一番オイシイ所持っていきやがって!!」
「あー、それは確かに……」
と色々な方向から同じような台詞が聞こえた。
「水野?」
肩が震え出す。
「あ、あはは……く、くくっ……す、すみません」
俺の笑い声で周りは静かになるが、その間も笑いが収まらない。
一呼吸し自分を落ち着けてから渋沢さんと藤代から離れる。
「えーと、皆さん……有難う御座います」
その瞬間にまた周りが騒がしくなりだした。
 





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06.11.30

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