この声が、この想いが君に届くのなら、

喉が嗄れてしまうまで叫び続けよう。

 

 

生と死の狭間で

 

 

目が覚めた、気がした。

白い天井、見覚えが無い。

よく分からない浮遊感。

何だろう、コレは・・・。

 

 

母さんが泣いていた。

俺の前では絶対泣いた顔を見せない母さんが泣いていた。

ドアがノックされる音がして、母さんは涙を拭う。

「どうぞ」

その声は掠れていた。

「すんません、お邪魔します」

静かにドアを開けたのはシゲだった。

「シゲちゃん・・・来てくれたのね」

「はい・・・」

今は確か実家に、京都に居た筈だ。何で此処に居るんだ?

「・・・・っ」

シゲの視線はある所で止まった。

「・・・子供を助けたんですって」

「・・・そうですか」

視線の先には俺が居る。

包帯に巻かれ、いつも以上に白い肌をした俺が。

この白い空間と同化してしまいそうな・・・。

「シゲちゃん・・・私ちょっと出るから竜ちゃんを見ててくれる?」

「はい」

「有難う・・・」

そういうと母さんはドアを開けて出て行った。

俺は知ってる。

母さんはトイレへと向かうんだ。

そして、また泣く・・・。

 

静かだ。

いつも以上に。

この空間は嫌いじゃない。

でも・・・。

「このアホが・・・」

声に元気が無い。

「ホンマ、俺がおらん時に何ええ子ぶっとんねん・・・」

シゲの手が俺に触れようとして止まる。

「タツボン・・・」

ベッドの近くの椅子に座る。

シゲの手がまた動き出す。

頬に手が置かれる。

「温かい・・・生きとるやんな・・・」

勝手に殺すなよ。

そう言ってやりたい。

でも、俺の声はお前には届かない。

 

 

目が覚めた時、俺は病室に居た。

一番に目に入ったのは白い天井。

次が、俺。

きっと他にもあっただろうけど忘れてしまった。俺を見たのが印象に強くて。

でも、妙に冷静な自分もいた。

あぁ、此れが幽体離脱ってヤツなんだろか。それとも、死ぬ間際に見る・・・割り切ってしまっていた俺がいた。

別に死ぬのは怖くない。

どうせ人はいつか死ぬのだから。

そう誰かに言ったら笑われた。

生きてこそ楽しい事があるのだと・・・。

その言葉を思い出してもどうしようも無い。

目覚めようと思って、テレビでよくやっている自分の中に入ってみた。

・・・意味は無かった。

何度も試したけど、無意味だった。

目が覚める事何て無いのだろうか、このまま彷徨い続けるのだろうか。

俺はどうなるんだろう。

別にこのまま死んでも良いかな・・・。

母さんとかは寂しがるだろうけど。

ただお前に、シゲに一言言ってやれなかったのが少し残念かな。

 

 

シゲ。

呼んでも聞えない俺の声。

シゲは俺を見てる。

自分で自分に焼もちを焼くなんて思ってもみなかった。

それ程俺は、シゲが好きだったと改めて実感する。

シゲ。

届かない。

シゲ。

「なぁ、タツボン」

寝てる俺を見て言う。

やっぱり届かないんだな。

「タツボンは俺の事好きやった?」

届かなくても良いか。答えてやるよ。

好きだった。

「俺はな、好きやった」

初めて聞いた。

だってお前は俺の事を鬱陶しいと思っていたんじゃなかったのか?

「最初は嫌いやった。確かに興味はあったけど嫌いやった」

俺だってそうだよ。

お前が嫌いだった。

「せやけど、何時の間にか気になってたんや」

俺もだよ。

「結局桜上水におる間は言えんかったけど、離れたら分かってしもた。・・・俺、タツボンが好きやったんやって」

俺だってそうだ。お前が何時の間にかこんなにも俺の中を占めている何て思わなかった。

だから、だからあんなに焦った。

俺を裏切って・・・と。

話す機会は減った。

でも、気にはなっていた。

このどうしようもない気持ちを伝えるべきだとは思いつつも、お前と2人きりになったら何を言い出すか分からない。きっと罵ってしまう。お前の言う事何か信用出来なかった。お前に何も喋らせず俺だけがただ喋っていたかも知れない。

皮肉なもんだな。

俺が喋らないとお前はこんなにも話しかけてくれる。

俺を気にしてくれる。

言葉は届かなくても通じ合ってしまう気さえ起こさせる。

あの時素直になれていれば、何か変わっていただろうか。

でも、それは結局有り得ない話。

なぁ、シゲ。

俺がこのまま死んでしまったら、お前は悲しんでくれる?寂しがってくれる?

嘘でも良いから泣いてくれますか?

好きでした。

どうしようもなく、シゲが好きだった。

本当はただ触れたかった。

好きだと言いたかっただけなのに・・・。

どうして、今俺はお前に触れないんだろう。

少しで良いから触れたい・・・。

シゲへと手を伸ばすが、触れられない。

現実に居る者と、彷徨う者。

涙なんて出る筈も無い。実体ではないのだから、でも、何でだろう。何でこんなに悲しいんだろう。

いっそ泣ければ楽なのに。

 

 

シゲが来てから1週間経った。

俺は戻れないし、目を覚まさない。

やっぱりこのまま死ぬんだろうか。

せめて最後にシゲに触れれば良かったのに。そんな気分になる。

あれからシゲは毎日来ている。

触れようと思っても触れられない。

その度に涙の出無い俺の心が泣いている気がした。

触れられないならせめて呼び続けよう。

この声が君に届くように。

 

 

シゲ。

「なんや、タツボン」

俺何か気にしないで学校行けよ。

「今日も良い天気やんな」

お前、ずっとこっちにいるつもりか?京都に戻れよ。

「窓開けよか」

なぁ、シゲ。

「風が気持ちええな」

好きだよ。

「・・・タツボン」

シゲの唇が俺の唇に触れる。

でも、それは俺であって俺じゃない。

見ていて悲しくなるのはどうしてだろう。

それは俺だけど、俺じゃないからかな。

俺に言って。

好きだって言って。

「タツボン、好きや・・・」

 

まだ目覚めない俺。

少し俺の色が薄くなってきているのは気のせいじゃない。

このまま消えるのかな。

 

「タツボン」

今日でお前が来て2週間になる。

お前が来るのを楽しみにしているが、心配にもなる。

俺より学校の方が大事だろ。

ただでさえお前単位足らなさそうだし。

とか思いながらも知ってる。

お前が真面目に学校行ってるのを。

シゲが倒れたりしたら意味が無いだろ。

俺何か気にしないで良い。そう言いたい。

「なぁ、ええ加減目覚めてぇや、声聞きたい・・・」

俺も話したい。

触れたい。

シゲに抱きしめられたい。

・・・・・・あれ。

何か・・・透き通ってないか?俺。

消えるのかな。

このまま何も言わないで・・・。

お前にも触れられないまま・・・。

そう思ったらシゲにキスしていた。

きっとお前は分からないだろうけど、それでも俺は良い。

お前に触れた、そう思えただけで良い。

シゲ、好きだよ。

シゲ、ごめん。

シゲ、ありがとう。

・・・シゲ?

「何でやろう、何で涙が出てるんやろう」

自分でも分からない。という顔をしながらシゲが呟く。

初めて見たシゲの泣き顔はとっても幼くて綺麗だった。

「タツボン?」

シゲ。

「なぁ、タツボン・・・返事したって」

シゲ。

「なぁ、タツボン・・・」

シゲ・・・お別れみたいだ。

お前には見えないかも知れないけど、だって、もう俺には色が無いんだ。

「タツボンっ・・・」

シゲ・・・。

好きだよ・・・。

ずっと叫んでた。

気付いて欲しくて。

好きだよ、って言って欲しくて・・・。

 

 

眩しい。

眩しい。

何処にいるのか分からない。

体が痛い。

・・・・・・・・。

何かが聞える。

何?

誰かが呼んでる。

「タツボンっ!!」

シゲ・・・?

「タツボン!!」

段々とハッキリ聞えるシゲの声。

「タツボン!!」

見えない。

眩しくて見えない。

「タツボン・・・!!」

シゲが目の前にいるのに。

見えない。

「竜也っ!!」

見えた。

シゲっ・・・。

「竜也・・・」

「煩せぇよ・・・」

シゲの顔が幼く見えた。

 

 

 

 

 

 

End








何となく・・・。死ネタっぽいものを書いてみたくなり、書いたら・・・相変わらずよく分からない感じになってしまいました。
切ない感じが出てればOKなんですが。




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